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札幌高等裁判所 昭和59年(ネ)109号 判決 1985年7月22日

控訴人(第一審原告) 破産者栄土建株式会社破産管財人畠俊雄

右訴訟代理人弁護士 浅野元広

被控訴人(第一審被告) 二瓶木材株式会社

右代表者代表取締役 二瓶守

被控訴人(第一審被告) 二瓶守

被控訴人(第一審被告) 二瓶彰

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 森越博史

同 森越清彦

同 高橋剛

同 斉藤道俊

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人

1. 原判決を取消す。

2. 被控訴人二瓶木材株式会社は、控訴人に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和五四年一二月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3. 被控訴人二瓶守及び同二瓶彰は、控訴人に対し、それぞれ金五〇万円及びこれに対する昭和五四年一二月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4. 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5.仮執行宣言

二、被控訴人ら

主文同旨

第二、当事者の主張

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一、原判決三枚目表一四行目の「同3」から同裏二行目末尾までの部分を「同3及び同4のうち、昭和五四年一二月二八日、被控訴会社が破産会社の株式五〇〇〇株を代金五〇〇万円で、また被控訴人二瓶守及び同二瓶彰が同株式各五〇〇株をいずれも代金五〇万円でそれぞれ譲渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。右譲渡の相手方は、破産会社ではなく、いずれも訴外寺井個人である。」と訂正する。

二、控訴人の当審における新たな主張

1. 控訴人は、破産会による請求原因3及び同4に記載の各自己株式の取得を次の理由に基づき否認する。

(一)  破産会社による右自己株式の取得は、同株式が昭和五四年一二月二八日当時他に売却できる可能性のない実質的に無価値の株式であったから、破産申立前六月内に行なわれた無償行為ないしこれと同視すべき有償行為に該当する(破産法七二条五号参照)。

(二)  仮にそうでないとしても、右自己株式の取得は、破産会社が破産債権者を害することを知ってなしたものである(同法七二条一号参照)。

2. 仮に、破産会社が自己株式を取得したものではなく、訴外寺井個人が破産会社から金員を借り受けたうえ本件株式を譲り受けたものであるとしても、控訴人は、次の理由に基づき、被控訴人らの本件株式譲渡代金名下による金六〇〇万円の転得行為につき、否認権を行使し、同金員の返還を請求する。

(一)  破産会社の訴外寺井に対する金六〇〇万円の貸付は、破産債権者を害する行為であり、かつこれを知ってなされたものである(破産法七二条一号参照)。

(二)  また、被控訴人らが株式譲渡代金の名目で取得した金六〇〇万円は、訴外寺井が破産会社から借り受けた右金員を転得したものであるところ、(1)被控訴人らは、右転得した昭和五四年一二月二八日当時、破産会社の訴外寺井に対する右貸付が否認権行使の対象となることを知っていたものであり(同法八三条一項一号参照)、(2)さらに、本件株式は、そのころ、他に売却できる可能性のない実質的に無価値の株式であったから、本件株式譲渡名下に金六〇〇万円を転得する行為は、無償行為またはこれと同視すべき有償行為によって転得した場合に該当する(同法八三条一項三号参照)。

三、控訴人の前記新たな主張に対する被控訴人らの認否

1. 控訴人の新たな主張1の(一)及び(二)は、いずれも争う。

本件株式譲渡は、被控訴人らと訴外寺井個人との間でなされたものであり、破産会社による自己株式の取得には該当しない。

2. 同2(一)、同2(二)の(1)及び(2)は、いずれも争う。

訴外寺井は、破産会社から消費貸借を原因として振出を受けた小切手を訴外北空知信用金庫滝川支店に差し入れて、新たに取得した同金庫の自己宛小切手を被控訴人らに交付しているのであって、被控訴人らは破産法八三条にいう転得者には当らない。

第三、証拠<省略>

理由

一、本件株式譲渡の無効を原因とする不当利得金返還請求の主張(請求原因1ないし4)及び破産会社による自己株式の取得に対する否認権行使を原因とする転得金返還請求の主張(当審における新たな主張1)について

1. 当裁判所も、本件株式の譲受人は名実ともに訴外寺井個人であり、破産会社が自己株式を取得したものではないから、控訴人の被控訴人らに対する破産会社が自己株式を取得したことを前提とする右各主張はいずれも失当であると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(一)  原判決四枚目裏一二行目の「同第五号証、」の次に「同第七号証、」を加え、同一三行目に「証人」とあるのを「原審証人」と改め、同一四行目に「同証言」とあるのを「原審及び当審証人寺井潔(後記借信しない部分を除く。)、当審証人津村和雄の各証言」と改める。

(二)  原判決五枚目表六行目の「株式会社であり、」の次に「訴外寺井のほか、」を加え、同裏九行目冒頭から同六枚目表一四行目末尾までの部分を次のとおり改める。

「(三)(1) 被控訴人二瓶守は、右のとおり役員を辞任し経営から手を引きたいこともあって、被控訴会社の代表者代表取締役及び被控訴人二瓶彰の代理人としての立場をも兼ねて(本件株式譲渡に関する同人の資格は、以下同様である。)、昭和五四年二月ころから、訴外寺井に対し、被控訴人らの保有していた破産会社の本件株式合計六〇〇〇株を券面額で買い取るように申し入れを続けていた。

(2) これに対し、訴外寺井は、破産会社の発行済株式総数が二万株で、自己の保有株が四六五〇株であるので、本件株式合計六〇〇〇株を譲り受けると破産会社の株式の過半数を取得することになり、実権をもって破産会社の経営に当ることができるので、被控訴人二瓶守の右申し入れを受け容れたいと考えたが、買取資金の都合がつかなかったので、右申し入れを承諾する旨の明確な回答は留保していた。

(3) そこで、被控訴人二瓶守は、昭和五四年一一月ころから、一層強く本件株式買取を請求したところ、訴外寺井は、これを拒絶すれば、破産会社の唯一の建築資材購入先である被控訴会社から右資材の供給を停止され、破産会社の経営が危機に陥るかもしれないと考え、同年一二月二五日ころ、被控訴人二瓶守に対し、本件株式合計六〇〇〇株を同年中に券面額合計金六〇〇万円で自ら個人としての立場で譲り受けることを承諾した。

(4) しかし、訴外寺井は、金六〇〇万円の手持資金がなかったので、破産会社から一時的に同金員を借用して本件株式を譲り受けることとし、その返済は、訴外寺井の破産会社に対する貸付金や右株式の一部を破産会社の社員に譲渡することによるその譲渡代金などをもってこれに充てようと考えた。

(5) そして、昭和五四年一二月二八日、訴外寺井は、取締役会の承認を受けることなく破産会社の代表者代表取締役として同会社を代表して取締役たる同訴外人に対し金六〇〇万円を貸し付け(以下、これを「本件貸付」という。)、破産会社の同日振出にかかる額面金六〇〇万円の小切手(甲第二号証の一・二<省略>以下「小切手(A)」という。)を取締役としての立場で受領した。

(6) 訴外寺井は、前記(3)の約束どおり、被控訴人らが昭和五四年中に、より確実に小切手を現金に換金して本件株式譲渡代金を受領することができるようにするため、右同日、小切手(A)を破産会社の取引先銀行である訴外北空知信用金庫滝川支店に差し入れて、同金庫の同日振出にかかる額面金六〇〇万円の自己宛小切手(甲第三号証の一・二<省略>以下「小切手(B)」という。)の交付を受けたうえ、小切手(B)を所持して被控訴会社に被控訴人二瓶守を訪れ、本件株式譲渡代金の支払として小切手(B)を同被控訴人に交付した。そこで、被控訴人二瓶守は、その場で、被控訴会社の保有にかかる本件株式五〇〇〇株の株券を訴外寺井に交付したほか、残る一〇〇〇株の株券も同日中に同訴外人に対して交付した。そして、訴外寺井は、本件株式の一部を破産会社の社員に買い受けてもらう場合に備えて、暫定的に本件株式六〇〇〇株の株券を破産会社の金庫に保管しておくことにした。

(7) 被控訴人二瓶守は、昭和五四年一二月三一日ころ、破産会社の監査役を辞任する旨の辞任届(甲第七号証)を破産会社に対して、また同五五年一月ころ、被控訴人らが訴外寺井個人に本件株式六〇〇〇株を金六〇〇万円で譲渡した旨の有価証券取引書三通(乙第三号証の一ないし三)を同訴外人に対して、それぞれ交付した。

(四) なお、破産会社作成にかかる昭和五四年一二月三一日付振替伝票(甲第一号証)、同五五年二月二九日付貸借対照表及び財産目録(乙第四号証の一、三)には、破産会社が本件株式六〇〇〇株を代金六〇〇万円で譲り受けた旨の記載がなされているが、これは、破産会社の会計担当者であった訴外豊田康子が、破産会社において本件株式を自己株式として譲り受けるものと誤解してその趣旨の右伝票を作成したこと及び右伝票を基礎資料として右貸借対照表と財産目録が作成されたために、これらにも右同旨の記載がなされたこと並びに訴外寺井が自己株式の概念についての知識を有していなかったため右各書類中の右各記載を訂正ないし削除する措置を怠っていたことなどが原因となって生じた結果と認められるから、右各記載は、訴外寺井個人が本件株式を譲り受けた旨の前記認定を左右するに足りない。」

(三)  原判決六枚目裏一行目から同二行目にかけて「破産会社の破産申立の時まで」とあるのを「同五五年一月三一日ころまで」と改め、同三行目の「破産債権」の次に「(約金一七七万円の建築資材売掛債権及び約金五三〇七万円の手形債権)」を付加する。

(四)  原判決六枚目裏五行目から同六行目にかけて「証人寺井潔の証言」とあるのを「原審及び当審証人寺井潔の証言」と改める。

(五)  原判決七枚目表三行目の「破産会社」から同一〇行目の「すぎないのであって、」までの部分を「破産会社作成の前記振替伝票、貸借対照表及び財産目録上、本件株式が破産会社の取得した自己株式として処理されているとしても、これは前記会計担当者の誤解などに基づく結果であるから、」と改める。

2. 以上の次第で、破産会社が本件株式を自己株式として取得したことを前提とする控訴人の前記各主張は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

二、転得者に対する否認権行使を原因とする転得金返還請求の主張(当審における新たな主張2)について

1. 破産会社からその取締役である訴外寺井に対する本件貸付は、商法二六五条にいう取締役と会社間の取引に当るところ、前認定のとおり取締役会の承認を受けていないので、破産会社は同訴外人に対してその無効を主張し、貸付金の返還を請求することができる(最判昭和四三年一二月二五日民集二二巻一三号三五一一頁参照)。したがって、本件貸付は、破産会社の責任財産である破産財団となるべき財産を減少させ、後記3(一)(1)に掲記のような一般債権者が満足を得られなくなる結果を生ずるものであるから破産法七二条一号にいわゆる「破産債権者を害する」ものということができ、また破産会社を代表して本件貸付をなした代表者代表取締役たる訴外寺井においても、前認定事実によれば、本件貸付の当時、右結果を生ずることの認識を有していたものと推認される。

そうすると、破産会社は、破産財団のため、本件貸付による受益者たる訴外寺井に対し、同貸付について否認権を行使することができる。

2. ところで、訴外寺井は、前認定のとおり、破産会社から額面金六〇〇万円の小切手(A)を受領することにより本件貸付を受けたうえ、同小切手を前記北空知信用金庫滝川支店に差し入れて額面金六〇〇万円の小切手(B)の交付を受け、これを本件株式譲渡代金六〇〇万円の支払として被控訴人二瓶守に交付している。このように、本件貸付によって受け取った小切手(A)を小切手(B)に切り替えたうえ、これをもって本件株式譲渡代金の支払に充てた場合、小切手(A)と小切手(B)との間には社会観念上同一性があり、被控訴人二瓶守が右代金として受領した小切手(B)は、なお小切手(A)に由来するものと解される。

そうすると、被控訴人らは、受益者たる訴外寺井が否認の対象たる本件貸付によって取得した財産権を同訴外人から承継的に転得した破産法八三条一項にいわゆる「転得者」に該当するものというべきである。

3.(一) 次に、前記一1に認定の各事実に、<証拠>を総合すると次の各事実が認められ、原審及び当審証人寺井潔の証言中右認定に反する部分は右各証拠に照らし措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1)  破産会社は、昭和五三年一一月ころ、下請業者が工事を途中で放棄しながら前払金として破産会社から振出、交付を受けた約束手形を返還しなかったために、約金四〇〇〇万円の損害を被ったほか、同五四年春に倒産した下請業者の援助のために同年六月ころ破産会社が振り出した約束手形を第三者に騙取されたり、さらに同年一一月ころには右とは別の取引先下請業者が倒産したり、同年一二月三一日には取引先銀行から借入金について返済を求められたりして経営が悪化した結果、昭和五五年二月一八日には額面金額約金一億二〇〇〇万円の約束手形の、同年二月二九日には同約金四四〇〇万円の約束手形の各不渡事故を生じさせ、そのころ銀行取引停止処分を受けた。

そして、右取引停止処分を受けたころから破産会社の営業は中断し、多数の債権者が同会社に債務の返済を求めてきたため、昭和五五年三月六日及び同月一七日に債権者集会が開催されたが合意が得られなかったので、破産会社は、同月二五日ころに至り、札幌地方裁判所滝川支部に対して自己破産の申立てをなした。なお、昭和五五年二月二九日当時における破産会社の資産、負債の状況は、約金三億三八二六万円の債務超過であった。そして、右裁判所は、昭和五五年四月一八日、破産会社の破産宣告をなした。

(2)  ところで、被控訴人二瓶彰は、昭和四六年ころ破産会社の取締役を辞任した後は、全く同会社の経営に関与していない。また、被控訴会社の専務取締役兼破産会社の監査役であった被控訴人二瓶守は、訴外寺井に対して役員辞任を申し入れた昭和五四年二月ころまでは、同訴外人と破産会社の経営に関する相談をしたり、年に一、二回、決算期には破産会社に赴いて決算書類を監査したり、被控訴会社の専務取締役であった訴外津村和雄をして毎月一回程度破産会社の会議に出席して経営上の助言を与えさせるなどして、破産会社の経営に関与していたが、その後は、前認定のとおり破産会社の経営から手を引いて、これを訴外寺井に委ねることにした。

(3)  したがって、昭和五四年二月以降は、被控訴会社と破産会社との間において建築資材の取引が従前通り継続されるのみで、被控訴人らは破産会社の経営に関与することがなかったので、同会社の経営状態や訴外寺井の個人資産状況などについては正確な情報を有していなかった。

そのため、被控訴会社は、破産会社との間で、昭和五五年一月三一日ころまで、ほぼ従来どおり建築資材の取引を継続していたもので、被控訴会社から破産会社に対する資材売上高は次のとおりである。即ち、昭和五三年一二月分(同年一一月二一日から同年一二月二〇日までの分の取引である。以下同旨。)は約金九五四万円、同五四年一月分は約金三三四万円、同年二月分は約金一七五万円、同年三月分は約金一五万円、同年四月分は約金一六二二万円、同年五月分は約金一六〇万円、同年六月分は約金一三五五万円、同年七月分は約金一一三七万円、同年八月分は約金一一三一万円、同年九月分は約金九五万円、同年一〇月分は約金一三二四万円、同年一一月分は約金一〇四九万円、同年一二月分は約金六六二万円、同五五年一月分(但し、同五四年一二月二一日から同五五年一月三一日までの分)は約金一七八万円であり、右冬期間における売上高の減少は、同期間における建築需要の減少が主な原因と考えられる。そして、破産会社は被控訴会社に対し、右資材購入代金として、昭和五四年一二月には約金一〇四九万円、同五五年一月には約金六五四万円の、それぞれその前月の被控訴会社からの請求金額に見合う程度の支払をなしている。

なお、被控訴会社は、本件株式譲渡をなしたころ、その後も破産会社と取引を継続する条件として、訴外寺井に対し、破産会社の被控訴会社に対する取引上の債務につき同訴外人所有の居宅を担保として提供することを要求したところ、昭和五五年一月一四日に同訴外人との間で根抵当権設定の合意が成立し、同月二八日に、極度額を金一五〇〇万円とするその旨の登記手続が経由された。

(4)  右のような取引などを継続した結果、被控訴会社の破産会社に対する確定した破産債権の総額は前認定のとおり金五四八五万三九〇二円となった。そして、被控訴会社は、破産会社の破産宣告後、右債権につき保証人である訴外寺井外一名から合計金一九五〇万円の弁済を受けたので(なお、これに伴い前記根抵当権設定登記も昭和五六年五月三〇日解除を原因として同年七月一五日抹消された。)、現在右確定した破産債権としては金三五三五万三九〇二円が残存している(この残債権額については当事者間に争いがない。)。

(5)  また、訴外寺井は、昭和五四年一二月二八日、被控訴人二瓶守のもとに本件株式譲渡代金として小切手(B)を持参した際、破産会社から同訴外人に対する本件貸付の事実及び右小切手を前記北空知信用金庫滝川支店から入手した経緯などについては、被控訴人二瓶守に対してこれを説明することがなかったので、同被控訴人は、右各事実を知ることがなかった。

(二) 以上の事実によれば、(1)本件株式譲渡のなされた昭和五四年一二月二八日から破産会社の第一回目の手形不渡事故発生までには五三日を経過していることが明らかであり、(2)破産会社は同五五年一月末ころまでは資金繰りに窮しながらもなんとか従前とほぼ同様に営業を継続していたと推認され、(3)本件株式の譲り受けは、訴外寺井が、破産会社の実権を握りかつ被控訴会社からその後も従来通り建築資材の供給を受けて破産会社の経営を維持していくために、是非とも必要な行為であったと推認され、(4)訴外寺井は、本件株式譲受当時、破産会社が経営難の状況にあるとはいえ、努力及び工夫次第によっては、その後十分に破産会社の経営を建て直すことができるものと考えていたし、被控訴人らにおいても破産会社が倒産することまでは予想していなかったと推認され、(5)したがって、被控訴人らにおいてはもとより、訴外寺井においても、本件株式譲渡当時、同株式が無価値ないしこれと同視しうる程度の価値しかないものとの認識は有していなかったと推認され、(6)よって、客観的にも右株式に右のような価値しかなかったものとはいえない。

右の諸点に照らすと、本件株式譲渡のなされた昭和五四年一二月二八日当時、本件株式は無価値ないしこれと同視すべき程度の価値しか有しなかったものではないので、右株式譲渡行為をもって、無償行為またはこれと同視すべき有償行為ということはできないし、また、そのころ、被控訴人らにおいて、本件貸付が否認権行使の対象となることを知っていた事実もないものというべきである。

4. 以上の次第で、転得者に対する否認権行使を原因とする転得金の返還を求める控訴人の当審における前記新たな主張も失当である。

三、結論

よって、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求を棄却した原判決は結局相当であって、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 舟本信光 裁判官 吉本俊雄 井上繁規)

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